ICCEES Congress 2015, Makuhari, Japan参加記 笹原 健


 

2015年8月3日から8日まで,幕張メッセならびに神田外語大学にて,The IX World Congress of ICCEES in Makuhari, Japan(第9回国際中欧東欧研究協議会幕張世界大会)が開催された。筆者は国際学会への参加は何度かあるものの,これほど大規模な大会に参加するのは初めてであった。なにもかもが新鮮に感じられた。もちろん,海外から多数の参加者がきているので,公用語は英語だ。会期中はきわめて暑い日が続いており,さぞ海外から来た参加者たちは大変だったろうと思っていたのだが,存外涼しげな顔をして参加していたのが印象に残った。

その暑いなか,筆者はSession IIのパネルにおいて研究発表をおこない,Session IVのパネルではChairを務めた。筆者は,出講先の業務が重なっていたことと,ドイツでのソルブ語調査の出発が目前だったことで,会期中のすべての日に参加することはかなわなかった。その限られた期間であっても,十分に充実した時間を過ごすことができた。

以下では,筆者が直接かかわっていたセッションを中心に,ICCEES見聞記を記す。

8月5日(水),Session IIのパネルIssues of Language Contact and Linguistic Changeにおいて“The Constituent Order in Upper Sorbian – a Frequency Approach”という題目で発表をおこなった。この概略は以下の通りである。

上ソルブ語の文要素間の語順は文法的には規定されていない。ところが,高頻度で現れるパターンがある。より高頻度で現れる形式は,より自然であるという考えがある。この考えをもとに,この発表では主格名詞句,与格名詞句,対格名詞句の3つについて,自身が収集した音声資料コーパスからその相対的な語順の分布を示し,その背後にはたらいている原理を探った。便宜上,現れている名詞項が2つの場合と3つの場合にわけ,記述をおこなっている。現れている名詞項が2つの場合,可能な組み合わせは(a)主格と対格,(b)主格と与格,(c)与格と対格の3通りである。このとき,相対的な語順の頻度から,(1)主格>対格,(2)主格>与格,(3)与格>対格という階層がみられる(>は左項が右項に先行することを表す)。現れている名詞項が3つの場合,(4)主格>与格>対格という相対的語順が支配的である。この支配的語順が実現していない場合は,(5)再帰代名詞>人称代名詞>名詞という品詞による階層に従っているように思われる。むろん,以上のような統語的な要因だけでは説明ができず,情報構造など語用論的要因からも考察をしていかなければならないことを指摘した。

聴衆の数はそれほど多くはなかったものの,質疑応答では示唆に富むコメントが得られた。この口頭発表の内容を論文としてまとめ,本会会誌に投稿すべく準備をしているところである。

このセッションでは,Natalia Ringblom氏が “Russian as a Weaker Language in the Narratives of Bilingual Children”という題目で発表をおこなった。格に乏しい北欧言語圏において,ロシア語との二言語話者である子どもがどのように格標示をするのか,そして格の体系を習得していくのか,興味深い報告と考察がなされた。パネルのタイトルIssues of Language Contact and Linguistic Changeは言い得て妙だと感心した。

その2日後の8月7日(金),筆者はSession IVのパネルGrammatical and Contextual Analysis of Russian and Other Languagesで司会(Chair)を務めた。このSessionの最初の発表はDaiki Horiguchi氏による“‘Prefixal Clip’ as Actualization of Prefixes in Text”であった。ロシア語動詞の接頭辞に関して,Prefixal Clipという観点からの記述がなされた。続くIrina Thomieres氏による“Syntactic and Semantic Features of Events in Russian”は,ロシア語文における行為タイプを統語的ならびに意味的観点から簡潔にまとめ上げた。3番目の報告として予定されていた,Maia Advadze氏による“Function of Particles in Russian, English, German and Georgian Discourse”は都合によりキャンセルとなった。筆者も個人的に聞きたかった発表だったので,残念であった。

司会を仰せつかったものの,なかなか準備ができず進行役兼タイムキーパーに終止せざるを得なかったのが心残りである。筆者とは対照的に,討論者(Discussant)を務めた岡野要氏,菅井健太氏は周到な準備をしていたため,充実した討論となり,無事成功を収めることができた。この場を借りて両氏にお礼を申しあげる。

さて,この大会はいかにも21世紀の国際学会だと思われる点もあった。それは,大会開催前から開催中,そして開催後もFacebookページ(https://www.facebook.com/iccees2015/)で広報活動を繰り広げていたことである。またマイクロブログTwitterでも公式アカウントを取得し,上記Facebookページへと誘導していた。会期中のハイライトは,英文による日報The ICCEES Makuhari Timesである。連日,その日にあった出来事を写真つきで報告している。最終日の報告によれば,レジストレーションを行った参加者は50ヶ国から1209人にものぼったそうである(https://www.facebook.com/iccees2015/posts/952569741433041)。このようなSNSを用いた広報活動は,今後の国際学会でのトレンドとなるだろう。

筆者にとって本大会は,スラブ研究の幅広さ,奥深さに圧倒された期間であった。スラブ世界の西のへりにあるごく小さな地域の言語であるソルブ語研究に従事している者にとっては,まったく未知の大海原であった。その一方で,このとてつもない広い領域に多少なりとも貢献できるということに,誇らしささえ感じた。そして,今後もソルブ語研究を頑張っていく決意を新たにすることができた。

最後に,筆者の見知っている方々の多くが大会運営に携わり,会場内を駆け回っていた。準備期間を含めれば,相当の期間を開催準備に費やしていたはずである。大きな学会の大会であれば,大なり小なりのトラブルはつきものである。しかし,筆者の目に入る範囲では,それほど大きなトラブルはなかったように思われた。彼らの労なくしては,大会を成功させることはできなかったにちがいない。研究者ボランティアの方々,学生ボランティアの方々もまたしかりである。彼らに心からの敬意を表したい。