日本スラヴ学研究会 2016年度総会 ・ シンポジウム「中欧美術の現在」
[日時]:2016年6月11日(土) 15時~18時
[会場]:上智大学四谷キャンパス2号館5階508教室
http://www.sophia.ac.jp/jpn/info/access/accessguide/access_yotsuya
http://www.sophia.ac.jp/jpn/info/access/map/map_yotsuya
(堀に沿ったソフィア通りから正門を入ってすぐ左、上智大学でもっとも高い建物)
[プログラム]
14:00~14:30 総会(会員のみ)
15:00~18:00 シンポジウム「中欧美術の現在」
1989年の東欧革命以後、急速に進む政治経済状況の変化に伴って、中欧諸国の芸術文化においても大きな変容がもたらされている。本シンポジウムでは、大国に挟まれ歴史に翻弄されながらも、それぞれの地域での文化芸術の多様性を育み続けてきた、ポーランド、チェコ、ハンガリーなど中欧諸国の現代美術に注目し、その多様な状況について検証すると同時に、これからの芸術文化の可能性についても合わせて考えてみたい。
[報告者]※報告要旨は下記&添付ファイルをご覧ください。
加須屋明子(京都市立芸術大学教授):
「昼の家、夜の家」――P.アルトハメルとA.ジミェフスキの活動を中心に――
井口壽乃(埼玉大学教授):
実験的アート・アーカイヴ「ARTPOOL」――ガラーンタイ・ジェルジとクラニツァイ・ユーリアの活動――
宮崎淳史(チェコ美術研究家):
『WHERE THE PLACE – UPON THE HEATH』
イヴァン・ピンカヴァの写真とヨゼフ・ボルフの絵画について
[コメンテータ]:
香川檀(武蔵大学教授)
閉会の挨拶 沼野充義(本会会長、東京大学教授)
終了後、懇親会
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[シンポジウム報告要旨]
1.
加須屋明子(京都市立芸術大学教授):
「昼の家、夜の家」――P.アルトハメルとA.ジミェフスキの活動を中心に――
2015年7月に、ポーランドより講師として、2名の作家たち、パヴェウ・アルトハメルとアルトゥル・ジミェフスキを京都へ招いて、ワークショップ「昼の家、夜の家」を実施した。公募により選んだ育成対象者を対象に実施したこのワークショップは、通常とは少し異なっており、講師と参加者という立場を越え、全員が平等な「制限を設けない、非言語コミュニケーション」であった。そこで行われたのは、西と東の文化的な邂逅であり、時に対立し、時に緊張の瞬間を迎えながら、相互のやり取りが続けられた。
ポーランドの建築家、デザイナー、彫刻家であったオスカル・ハンセンの提唱した「開かれた形式」を、同じくポーランドの彫刻家、グジェゴシュ・コヴァルスキが受け継ぎ「共有空間、私的空間」としてワルシャワ美術アカデミーにおいて実施してきた。そこに参加していたのがジミェフスキやアルトハメルらであり、彼らはコヴァルスキの実践を受け継ぎつつ、それぞれ作家として国際的に活躍し、またワークショップを行ってきている。
本論では、こうした状況を考慮しつつ、ワークショップ「昼の家、夜の家」、並びに講師のアルトハメルとジミェフスキらの活動やその背景に注目し、その実験的な実践を通じて現代社会において美術の担い得る役割について考察を行う。
2.
井口壽乃(埼玉大学教授)
実験的アート・アーカイヴ「ARTPOOL」——ガラーンタイ・ジェルジとクラニツァイ・ユーリアの活動——
1979年に現代美術家ガラーンタイ・ジェルジとクラニツァイ・ユーリアによってブダペシュトに開設された現代美術ギャラリーARTPOOLは、35年にわたって中東欧の現代アーティストのネットワーク拠点として、彼らの活動をサポートし、様々なイヴェントを実践しつつ、関連するドキュメントなどを収集・保存してきた。ARTPOOLは単なる文書館(アーカイヴ)ではなく、生きている芸術創造の要としての機能があり、彼らの活動そのものがハンガリーの現代美術とも言える。ARTPOOLには作家のメモ、葉書、ポスターやチラシ、印刷物、映像や写真などから、ハンガリーのコンセプチャル・アート、パフォーマンス、ビデオ、メール・アートなど、社会主義時代から現在までの美術状況がうかがえる。本報告では、ガラーンタイ・ジェルジとクラニツァイ・ユーリアの活動を中心にARTPOOLにおける取り組みを紹介し、現代美術のアーカイヴ化の意義について検証したい。
3.
宮崎淳史(チェコ美術研究家):
『WHERE THE PLACE – UPON THE HEATH』
イヴァン・ピンカヴァの写真とヨゼフ・ボルフの絵画について
本発表では、『中欧の現代美術』(彩流社、2014年)でも紹介した二人のチェコ人芸術家、写真家イヴァン・ピンカヴァ(Ivan Pinkava, 1961- )と画家ヨゼフ・ボルフ(Josef Bolf, 1971- )の作品を検証することで、現代美術の一端を明らかにする。
イヴァン・ピンカヴァは、現在世界で最も知られているチェコの写真家の一人である。ピンカヴァは、高度な技術に裏打ちされた伝統的なモノクロ写真を用いて、聖書や神話上の人物、美術史上の絵画作品を、現代のモデルや身の回りのオブジェを使って、パラフレーズ、再解釈することで、人間の自我を暴露する。ピンカヴァより10歳若いヨゼフ・ボルフは、海外で自由に留学や展覧会をすることが可能になった最初の世代であり、インスタレーション作品を手掛ける美術家が多い世代には珍しく絵画を中心に発表している。ボルフの描く作品の背景は、彼が幼少の頃すごした無機質で陰鬱なプレハブ団地や病院や学校が多い。子供が多く登場し、ときに血を流し、頭部が動物であることもある。ボルフのモチーフは、きわめて個人的な内的経験でありながらも、旧共産圏という文脈に回収されない解釈の可能性を提示している。
以上のように全く作風の異なる二人であるが、2011年に一度だけ二人展を開催している。その展覧会を手掛かりに、二人の共通点についても考察する。
[共催]上智大学ヨーロッパ研究所