2018年度日本スラヴ学研究会 総会・シンポジウム

2018年度 日本スラヴ学研究会 総会・シンポジウム

 

[日程]:2018年6月30日(土)13:15~17:45

 

[会場]:東洋大学(白山キャンパス)6号館2階6218教室

 

[アクセス]:都営地下鉄三田線「白山」駅徒歩5分、東京メトロ南北線「本駒込」駅徒歩5分

 

[プログラム]

12:15~13:00 企画編集委員会(委員のみ)

 

13:15~ 総会(会員のみ)

 

13:45~15:00 《特別報告》

今年度より、前年度の博士の学位を取得された会員の方に特別報告を行なっていただくことになりました。今回は、以下のお二人にお話しいただきます。

 

・宮崎淳史(東京工業大学非常勤)「インジフ・シュティルスキーの詩学」

概要:本報告では、絵画、写真、コラージュ、挿絵、詩作など多様な表現手段を横断して作品制作をおこなった、チェコ・シュルレアリスムの作家インジフ・シュティルスキー(1899-1942)のジャンルを超えた作品に通底する詩学を明らかにする。シュティルスキーの作品は、共産主義時代公の場でグループとしての活動を禁止されたことから長らく展示される機会が奪われていたが、1989 年の共産党政権崩壊を契機に、チェコ国内だけでなく国外でも作品展示の機会を得て日の目を見るようになり、研究も進展してきた。ただしこれまでの研究では、個々の作品の内容を明らかにするというアプローチが多かったが、本報告では、それらの内容を留めている容器そのもの、作品そのものの構造、つまり油彩画や写真などの作品のフレーム、画中画、詩作品で描写されている箱状のものに注目し、フレーム=箱」を鍵概念としてシュティルスキーの作品に通底するものを明らかにする。

 

・松尾梨沙(日本学術振興会特別研究員PD)「ショパンの詩学 楽曲構造とポーランド文学構造の比較分析」

概要:本博士論文は、ポーランド出身の作曲家ショパンFryderyk Chopin

(1810−1849)の音楽作品、特に《バラード》の意味を、同時代のポーランド文学作品との比較から読み解いたものである。<第一部>では6 人のポーランド詩人たちの詩にショパンが付曲した《歌曲》全18 曲を扱い、<第二部>ではショパンの《バラード》全4 曲の構造を、ポーランド詩の「バラード」の構造と比較し分析した。その結果、ショパンが当時のポーランド語、ポーランド文学に鋭い感覚を持ち、詩人たちの才能や特徴を見抜く力を備えていたこと、そしてそれを踏まえることが、《バラード》を含む彼の主要な作品解釈への新たな指針となり得ることを提示している。

 

15:15~17:45

《シンポジウム「中・東欧におけるフィールドワークから/を考える」》

 

[概要]近年、日本の研究者の間でも、複数の分野で中欧やバルカン地域を対象としたフィールドワークが実施されており、その研究成果が蓄積されつつある。フィールドに身を置き、そこに暮らす人たちと空間や時間を共有することで何が見えてきたのか。今回の企画では、文化人類学、言語学、フォークロアの分野でフィールドワークを続けてきた方々に、それぞれのフィールドワークから思考したこと、その研究成果や課題についてお話しいただき、フィールドワークの方法や視点、そこから提起される問題について議論するとともに、全体を通し、スラヴ諸地域に関してフィールドワークにもとづく研究が持つ可能性についても考えたい。

 

[講演]

・神原ゆうこ(北九州市立大学)「スロヴァキアの多文化地域における政治的文脈と文化人類学的調査の可能性:ハンガリー系マイノリティ居住地域のフィールドワークより」

文化人類学者にとって、古典的かつ典型的なフィールドワークとは、村落に長期滞在しながら行う参与観察や聞き取りである。しかし、そのような調査が常に可能とは限らない。報告者は2012 年以降、スロヴァキアのハンガリー系マイノリティの調査を始めたが、当初はスロヴァキア語しか話せなかったこともあり、流暢なスロヴァキア語を話す各地のハンガリー系エリートへの聞き取りから始めるしかなかった。のちにハンガリー語がわかるようになって調査の幅は広がったが、それ以上に、多くのハンガリー系はバイリンガルであるにもかかわらず、ハンガリー語を介して出会った人々とスロヴァキア語を介して出会った人々の違いを実感した。本報告では、このようなフィールドワークの経験を通して、現在のマイノリティを取り巻く言語と政治、およびそのネットワークについて考えたい。

 

・寺島憲治(千葉大学)「歌を採る」

社会主義体制が崩壊した時、当の東欧諸国や日本でも、東欧革命とそれ以前、国家統治機構としての一党支配と複数政党制などについてはなばなしく論じられたのを記憶している。しかし、このような枠組みを作ると言説はおのずから筋書きができて、調査者を拘束し、聞く方には耳触りがよくて分かりやすいが現実とはずれているのではないか、と現地調査で感じていた。現実を出来る限り「生のままで」とらえるには、まず自らの「筋書き」を捨て去る必要があるだろう、その上で、このような「国家」、「地域」、「民族」などの枠組みを離れて「共同体」のなかで暮らし日常的に接触している人びとの視点から学んでみよう、と考えいくつかの定点を拠点に活動を始めた。

今回の報告では、この活動の一環として行われたダヴィドコヴォ村での民衆歌謡採録作業を、その前段階から文字テキストの形成にいたるまでの過程で浮かび上がってきた諸問題について考えてみたい。

 

[研究報告]

・菅井健太(筑波大学)「ブルガリア語方言話者を訪ねて」

ブルガリア語は、本国以外でも、周辺の諸国を中心にブルガリア系住民によってマイノリティの言語として用いられている。報告者はこれまでルーマニアやモルドバにおいてマイノリティとして暮らすブルガリア系住民の言語を対象に、マジョリティの言語との接触から生じる言語面での影響や変化について、フィールドワークの調査にもとづいた研究を行ってきた。本発表では、これまでのフィールドワークの概要や成果、そして今後の課題や展望についての報告を行う。

 

・松前もゆる(早稲田大学)「労働移動調査からの問題提起」

 中・東欧地域では、体制転換および(一部諸国の)EU 加盟に伴い、西欧への労働移動が急増したが、報告者がフィールドワークを続けるブルガリアの村々からも、2007 年のEU 加盟前後からギリシアやイタリア、フランス、ドイツ等へ出稼ぎに行く人々が目立つようになった。なかでも、移動先でケア(介護)の仕事に従事する30~50 代の既婚女性たちによる出稼ぎは、村の人々を困惑させる「新しい現象」であった。それから10 年余が経過した現在、彼女たちの子どもの世代が移動を始めている。今回の報告では、複数の場所を往来する人々の調査について、さらには、変化する様相をどのように描くことが可能かについて問題提起をしてみたい。

 

[ディスカッション]

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日本スラヴ学研究会 シンポジウム要旨
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