2018年度日本スラヴ学研究会研究発表会

平成2018年度 日本スラヴ学研究会研究発表会

 

3 月 20 日(水)13:00~18:30 

東京大学 本郷キャンパス 法文1号館1階113教室

 

開会の辞 阿部賢一(本会企画編集委員長、東京大学)

第Ⅰ部 研究発表

◆ 富重聡子(一橋大学大学院言語社会研究科博士課程)  司会:阿部賢一(東京大学)

1950年代末チェコスロヴァキアにおけるオルタナティブな映画製作 ―― ヴラーチル『ガラスの雲』の製作背景をめぐって

◆ ブルナ・ルカーシュ(実践女子大学) 司会:阿部賢一(東京大学)

(思い)描かれる日本 ―― 近年のチェコ文学の一側面をめぐって

◆ 土屋優(東京大学大学院人文社会系研究科修士課程) 司会: ローベル柊子(東洋大学)

ミラン・クンデラと世界文学 ―― チェコ作家ヴラヂスラフ・ヴァンチュラを通して

(休憩)

◆ 三田順(北里大学) 司会:小椋彩(東洋大学)

スレチュコ・コソヴェルと印象主義 ―― 地詩学的アプローチによる再評価の試み

◆ 岡野要(神戸市外国語大学) 司会: 三谷恵子(東京大学)

言語の内的変化と言語接触のはざまで ―― ヴォイヴォディナ・ルシン語の運動の動詞に見られる変化について

◆ 木村護郎クリストフ(上智大学) 司会:三谷恵子(東京大学)

カシューブ語とソルブ語の言語状況の比較に向けて ―― 言語維持要因としての宗教を中心に

           

第Ⅱ部 特別講演

Prof. Jerzy Jarzębski (ヤギェロン大学・ポーランド学科教授)

Gombrowicz's Wild Youths(ゴンブローヴィチの野性的な若者たち)

司会:加藤有子(名古屋外国語語大学)  講演は英語、通訳なし

 

 

閉会の辞 沼野充義(本会会長、東京大学)

 

発表要旨

富重聡子:1950年代末チェコスロヴァキアにおけるオルタナティブな映画製作 ―― ヴラーチル『ガラスの雲』の製作背景をめぐって

チェコ映画史において映画監督フランチシェク・ヴラーチルは、1960年代の代表作『マルケータ・ラザロヴァー』などで名高い巨匠である。彼の1950年代末の初期作品、および特にその製作背景は、いわゆるスターリニズムによる統制が一部緩み、自由な気風が表出してきた過渡期ならではの様相を呈している。本発表では『ガラスの雲』の場合を取り上げ、製作スタジオなどの製作背景を明らかにすることで、チェコ映画史における時代の推移の一断面について考察する。

 

土屋優:ミラン・クンデラと世界文学 ―― チェコ作家ヴラヂスラフ・ヴァンチュラを通して

ミラン・クンデラはチェコ・スロヴァキアからフランスに亡命した作家であるが、その経歴ゆえ当初は作品が政治的な読みをされることがあった。しかし、現在彼の作品はそのような一義的な解釈を逃れ、「世界文学」的領域において一定の価値が認められていると言えるだろう。本発表はこのクンデラ評価の変化に関して、彼自身がどのような戦略をとったのかを、クンデラが小説執筆開始以前に発表したチェコの作家ヴラヂスラフ・ヴァンチュラ論を通して考察したものである。

 

ブルナ・ルカーシュ:(思い)描かれる日本 ── 近年のチェコ文学の一側面をめぐって

日本を主要舞台にした〈ジャポニズム小説〉。19世紀後半のヨーロッパではこの種の作品が矢継ぎ早に発表され、読者の関心を引いた。チェコの詩人J・ゼイエルの『ゴンパチとコムラサキ』(1884年)は、現在ジャポニズム小説の代表作とされるP・ロティの『お菊さん』(1887年)より早く刊行されたことから、この文学ジャンルはチェコでも長い歴史を持つことがわかる。興味深いことに、第二次世界大戦後に急速に勢いが衰え、やがて湮没された〈ジャポニズム小説〉は、21世紀に入って再び頭角を現しはじめた。本発表は、近年のチェコ文学にみられる一つの文学現象に着目し、代表作を紹介しながらその特徴について考察を行う。

 

三田順:スレチュコ・コソヴェルと印象主義 ―― 地詩学的アプローチによる再評価の試み

 本発表では、戦間期スロヴェニア文学を代表する詩人スレチュコ・コソヴェル(Srečko Kosovel, 1904-1926)を取り上げる。近年のスロヴェニア文学研究においては、彼が最晩年に取り組んだ構成主義詩によってその前衛性が評価されてきたが、本発表ではコソヴェルが初期から晩年まで書き続けた「印象主義」的作品に目を向け、前世代のスロヴェニア・モデルネとの繋がりや、詩作品に認められる土地との結び付きを考察することで、中欧、イストリアといった、語圏や国境を越境する地詩学的観点からの再評価の可能性を検討する。

 

岡野要:言語の内的変化と言語接触のはざまで ―― ヴォイヴォディナ・ルシン語の運動の動詞に見られる変化について

 北スラヴ諸語の移動をあらわす動詞の一部は、運動の動詞と呼ばれる語彙・文法カテゴリーを形成し、定動詞・不定動詞のペアを成すことが知られているが、セルビア北部およびクロアチア東部で話されているルシン語の文章語変種にもこのカテゴリーが存在する。本報告では、ヴォイヴォディナ・ルシン語の運動の動詞のカテゴリーで生じている変化について言語の内的変化と言語接触の2つの観点から考察し、一部の動詞に見られる定動詞・不定動詞の混同がこれら2つの要因と密接に関連していることを示す。

 

木村護郎クリストフ:カシューブ語とソルブ語の言語状況の比較に向けて ―― 言語維持要因としての宗教を中心に

共に西スラブ系の少数言語であるカシューブ語とソルブ語は、これまで言語学的、また社会言語学的観点からさまざまな比較研究が行われてきた。本報告では、その重要性が両言語について指摘されていながら、先行する比較研究において直接とりあげられてこなかった、宗教が言語維持に果たす役割について検討する。プロテスタント地域に囲まれたカトリック地域の上ソルブ語と、同じカトリックのポーランド語話者の間におかれたカシューブ語の異同を明らかにすることで、言語維持要因としての宗教に関する知見を深めることが本稿の目的である。

 

【アクセス】

地下鉄丸ノ内線 本郷三丁目駅から徒歩8分・地下鉄大江戸線 本郷三丁目駅

から徒歩6分・地下鉄千代田線 湯島駅または根津駅から徒歩8分・地下鉄南

北線 東大前駅から徒歩1分・地下鉄三田線 春日駅から徒歩10分

 

特別講演

Prof. Jerzy Jarzębski

(ヤギェロン大学・ポーランド学科教授)

Gombrowicz's Wild Youths

(ゴンブローヴィチの野性的な若者たち)

講演概要

ヴィトルド・ゴンブローヴィチの作品に典型的な「野性的な若者像」を、同時代の全体主義体制を背景に読み解き、それを通して、ゴンブローヴィチ作品の再解釈を行います。

My intention is to provide a reinterpretation of the whole works by Gombrowicz. My hypothesis is that the most important ideas expressed in Gobmrowicz's oeuvre are tightly connected with his reflections on the newly emerging forms of totalitarian regimes. My analysis is based on the specific cooperation between the old, official representatives of societies and their unofficial, immature counterpart: the “wild youths.” In Gombrowicz’s view, the most important task of the writer is to describe those youths and their specific ways of thinking and behaving in order to understand the greater social processes and conflicts of the contemporary world.

【講師プロフィール】

イエジ・ヤジェンプスキ(Jerzy Jarzębski)

ヤギェロン大学(クラクフ、ポーランド)ポーランド学科教授。文学研究

者、批評家。ヴィトルド・ゴンブローヴィチ、ブルーノ・シュルツ、スタ

ニスワフ・レム研究の第一人者であり、移民文学を含む20‐21 世紀ポーランド散文に関する世界的な研究者。ポーランドで刊行されたレム選集、ゴンブローヴィチ選集、『シュルツ辞典』等の編者でもある。著書に『ゴンブローヴィチにおけるゲーム』Gra w Gombrowicza(1982)、『自作自演としての小説』Powieść jako autokreacja(1984)、『ポーランドで、つまりあらゆる場所で――ポーランド現代散文論』W Polsce, czyli wszędzie. Studia o polskiej prozie współczesne(j 1992)、『移民との別れ― ― 戦後ポーランド散文』(1998)Pożegnanie z emigracją. O powojennej prozie polskiej、『レムの宇宙』Wszechświat Lema(2002)、『中心の辺境――シュルツへの注釈』Prowincja centrum: przypisy do Schulza(2005)、『自然と劇場――ゴンブローヴィチに関する16 のテクスト』Natura i teatr. 16 tekstów o Gombrowiczu(2007)、『シュルツの場所と記号』Schulzowskie miejsca i znak(i 2016)ほか多数。ポーランド国内はもとより、欧米で招待講演多数。

【ゴンブローヴィチ作品の日本語訳】

『フェルディドゥルケ』米川和夫訳(平凡社)、『ポルノグラフィア』工藤幸雄訳(河出書房新社)、『バカカイ』工藤幸雄訳(国書刊行会)、『コスモス』工藤幸雄訳(恒文社)、『トランス=アトランティック』西成彦訳(国書刊行会)、「ブルグント公女イヴォナ」関口時正訳(『ディブック/ブルグント公女イヴォナ』未知谷)。

関連企画 シンポジウム「ポーランド文学の多様性」 3 月21 日(木)13-17 時、東京大学法文2 号館2 番大教室(本郷キャンパス)。ヤジェンプスキ教授のスタニスワフ・レムに関する講演「レム的思考」(Myślenie według Lema、ポーランド語、日本語映写)があります。合わせてご参加ください。

 

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