会長の挨拶 (2019-)

日本スラヴ学研究会第 6 代会長 長與進 

 

 2019 年 6 月の総会を機会に、日本スラヴ学研究会の会長という役割を担うことになりました長與です。2007 年から 2015 年まで企画編集委員長を務めて、その後 4 年間、ちょっと距離をおいて研究会の活動を眺めていましたが、ふたたびある種の役割を果たすべき時期だ、と自分に言い聞かせました。

 

 私事を持ち出して恐縮ですが、ぼくは今年 3 月末日に、これまで 28 年間勤務してきた大学を定年退職して、持ち時間と気分の上で、じゃっかん余裕ができたという事情もあります。自分の仕事だけでなく、「社会的な貢献」(大げさな表現ですが)もそれなりに行なわなければならない、という気持ちも働きました。といっても、気負っているわけではありません。会長として果たすべき役割とはなにかを、とまどいながら模索している、というのが正直なところです。

 

 会長に指名される日、家を出る前に日本スラヴ学研究会のホーム・ページで、研究会の「会則」と「沿革」を熟読してきました。会則でなにより目に留まったのは、第 2 条の「本会は、日本におけるスラヴの言語、文学、文化の研究発展に寄与し、研究者間の交流を促進することを目的とする」という一文です。周到に練られた文言で、本研究会の基本的役割を簡潔に表現していると思います。それを前提にして、こう付け加えたらどうでしょうか。-「国内におけるスラヴ研究を、全世界のスラヴ研究の動向と積極的に結びつけ、外での研究成果を取り入れて、交流をさらに促進し、いっぽう国内の成果を、外に向かって積極的に『発信』する場とする」。でもこれは会員のみなさんが、すでに常日頃、実践していらっしゃることでしょうから、敢えて付け加える必要もないかもしれません。それに研究会にとっての会則は、一国の憲法と同じ重みを持っていますから、改定には慎重でなければならないとも思います。

 

 もう一点は第 9 条の、「会長は本会を代表し、総会を招集し、会務を統括する」という短い文言です。今回はじめて、気になりました。とくに最後の「会務の統括」の意味が、まだはっきりとイメージできていません。この点については適宜、歴代の会長である千野栄一さん(すでに鬼籍に入られてしまいましたが)、小原雅俊さん、飯島周さん、土谷直人さん、沼野充義さんのアドヴァイスを仰ぎながら、自分なりに納得できるスタイルを模索していかなければ、と考えています。

 

 「沿革」は今回改めて読んで、気持ちを引き締めました(この沿革の文責はぼくになっていますから、自分の書いたものを読んで襟を糺すというのは、じゃっかん奇妙ですが)。本研究会が「西スラヴ学研究会」として発足したのは 1984 年のことですから、もう 35 年も昔のことですが、ぼくも当初から末席に連なっていました。研究会立ち上げ時の、一種独特の熱気と雰囲気は、いまでもはっきりと記憶しています。「沿革」を読むと、そんな懐かしさとともに、もっと多くの貢献ができたはずだった、という自責の念がこみ上げてきますが、この感情も今回、会長を引き受ける決心をしたモチベーションのひとつになっているのかもしれません。

 

 繰り返しますが、とくに気負っているわけではありません。あまり好きな表現ではありませんが「自然体で」、しかしある種の緊張感を保ちつつ、務めていきたいと思っています。型どおりですと、「最後にみなさんのご協力をよろしくお願いします」、と言うべきかもしれませんが、それだと政治家風の決まり文句になってしまいかねませんから、「研究会についてのみなさんのご意見、ご要望、ご希望、あるいはご批判を、直接にお聞かせください」、と言うことにします。これも決まり文句の匂いがしますが、ほかに適切な表現が思い浮かびません。以上をもって挨拶に代えさせていただきます。